
「INSTAX mini 99」誕生の裏側。製品担当者に聞く、カメラの常識を覆す“直接照射”が生まれるまで
カメラの常識を覆す新機能を搭載した「INSTAX mini 99™(以下、mini 99)」*1が、2024年4月に発売されました。アナログカメラの人気製品「INSTAX mini 90™(以下、mini 90)」の後継機として登場したmini 99は、カメラ内部のLED発光によりフィルムに直接照射し、多彩な色を表現できるという斬新な機能が特徴。 そんなmini 99は、どのようにして誕生したのか。今回は、mini 99の商品企画担当・神谷さんと、デザイン担当・兵藤さんに、開発の裏側を伺いました。
こだわったのは、“アナログ感”と“FUNな要素”の両立
▲左:商品企画担当・神谷さん/ 右:デザイン担当・兵藤さん
――mini 99はカメラ内部にLEDが配されていて、それが発光することによってフィルムに直接照射し色を表現できる『カラーエフェクトコントロール』機能をINSTAXシリーズで初めて搭載していますね。 とても斬新な試みですが、製品化はどのように進んだのでしょうか。
神谷さん:「mini 90の後継機として、何かおもしろいものができないか」ということを検討していく中で、“LEDが発光してチェキフィルムに色がつく”というアイデアは、デザイン担当の兵藤さんが提案してくださいました。
兵藤さん:ただ、僕も初めての挑戦だったので、頭の中のアイデアが実現可能なのかは分からなかったんです。なのでまずは、「カメラの内側にLEDがあって、それに色を載せたら何かできるのではないか?」というのを、絵に起こしました。 新製品の開発メンバーにそれを見せたところ、神谷さんはおもしろがってくれたのですが、開発担当の方たちはまだ疑問符がついている感じでしたね(笑)。
神谷さん:そうでしたね(笑)。 兵藤さんがこのアイデアを出してくださるまでにも、いろいろなアイデアが出ていたのですが、どれも“登場感”にかけるものばかりで。 なので、これが実現できたらおもしろいなと思いました。
兵藤さん:とはいえ僕も実際にはやったことがなかったので、mini90をベースにデモ機を自作してみました。 それを使って実験的に撮影を続けていたら、ちゃんとチェキプリントに色が載った瞬間があって。 そこで「大体こうやれば上手くいく」という仕様がわかったので、神谷さんと開発担当の方にもお見せして。 すると「実現できるかも」というのが伝わり、やっと「製品化に向けて考えてみましょう」という雰囲気になりましたね。 そこからは試作を重ねたりと最終的には開発の協力もあって実現できた機能です。
――「カメラとはこうである」という、ある種の常識を覆していて、ユーザーに「楽しんでほしい」という気持ちが伝わってきます。
神谷さん:ありがとうございます。チェキのユーザーは、“きれいなシャープネス”よりも、“撮影の手間やプロセスの楽しさ”を求めている方が多いので、「どうしたらFUNな要素を詰め込めるか」を考えました。 また、チェキシリーズでも「INSTAX mini Evo™」のようなハイブリッドカメラで様々なエフェクトが楽しめる中、アナログカメラの最上位機種として何を進化させられるのかを考え、アナログ感を徹底的に突き詰めることにもこだわりましたね。
――「アナログ感」という言葉が出ましたが、アナログらしさを出すためにこだわった点を教えていただけますか?
兵藤さん:まず『カラーエフェクトコントロール』の色です。これは何度も試して、完成体にたどり着きました。 色を載せすぎるとデジタルっぽさが出てしまうので、いかに主張しすぎないように“味づけ”できるかというところを目指しましたね。
神谷さん:カラーフィルターっぽくならないように、ちゃんとフィルムの良さや味が出るよう意識しました。 LEDを発光させる秒数によってチェキプリントに出現する色が変わるので、照射時間を小刻みにシミュレーションしながら何百枚も撮影して一番良い色にたどり着きました。
――フィルムの良さを感じる、絶妙な色合いですよね。ほかにアナログっぽさを出すためにこだわった点はありますか?
神谷さん:ダイヤルを搭載した点です。mini 90にはダイヤルがついていなかったのですが、よりアナログ感を楽しんでいただくために、mini 99には搭載しました。 また、ダイヤルのクリック感には特にこだわりましたね。硬すぎると操作しづらいけど、柔らかすぎると逆に使いづらい。 ダイヤルを回したときの音についても、あまり大きいとおもちゃ感が出てしまうので、高級感を保ったまま、ちょうど良いクリック感になるように、試作品を作って調整していきました。
兵藤さん:僕は特に外観にこだわりましたね。ボディ部分のシボ加工(製品の表面にシワ模様をつけること)は、シボが大きすぎると安っぽくなってしまうので、mini 99では小さめを採用しました。 塗装は、ハンマートーン塗装と呼ばれるもので、昔のカメラなどに採用されてきた塗装方法です。また、表面にある製品名は実は印刷ではなくて、彫ってそこにインクを流し込んでいます。 こうすることで、より発色が良くなるんですよね。これも昔のカメラに使われていた表現方法です。手触りも艶っぽくなりすぎず、少しザラっとした皮のパターンを採用することで、高級感を出しました。 こんなふうに、デザインでもアナログカメラっぽさを演出しています。
――なるほど。フィルムのドアを開けたときにLEDが光るのも印象的ですよね。
神谷さん:この色や光らせる秒数にもかなりこだわりましたね。正直なところ、開発する側としては1色を一瞬光らせるのが一番やりやすいんですが、それだとデジタルっぽくなってしまう。 そこで、光の色を調整して、グラデーションのように光らせることで、センチメンタルな印象を実現させました。
“偶発的”な瞬間が“決定的”な瞬間に。mini 99は日常の機微を映し出す
――新規機能としてもう一つ、mini 90から引き継がれた「濃淡調整」機能のバリエーションに『D-(より暗く)』が追加されましたね。
兵藤さん:「濃淡調整」のD-は、モノクロ写真を撮影したときに黒(影)をより鮮明に出したい、という発想から生まれた機能です。 ぜひユーザーの方々にも、モノクロームのフィルムを使って、試してみていただきたいですね。
神谷さん:あと、D-と『カラーエフェクトコントロール』のライトブルー(LB)の組み合わせがとても相性が良くて。 幻想的なチェキプリントが撮れるので、個人的にもおすすめです。
――さまざまな楽しみ方ができそうですね。ビネットモードも新たに搭載されましたが、これはどういった経緯で?
兵藤さん:ビネットモードは「こういうのがあったら面白いんじゃないか」と、僕から提案させていただきました。 最初はデモ機のレンズ部分に黒いテープを貼って、どれくらいの絞り加減がいいかを試していきました。
神谷さん:ビネットモードはレンズ横のスライド式スイッチでON/OFFを切り替えられますが、これも「アナログで実現させるならどんな方法がベストか?」を話し合って、あえて手動で操作できるようにしました。 デジタル的にビネットをかけるのではなく、実際に入ってくる光を物理的に絞るのがアナログならではのこだわりです。
――ビネットモードを使うと、より芸術的なチェキプリントが撮影できそうです。mini 99は機能の組み合わせでさまざまな撮影が楽しめますが、特にお二人が気に入っている組み合わせや『カラーエフェクトコントロール』はありますか?
神谷さん:僕は元々ライトリーク(LL)が好きだったのですが、最近は先ほども紹介したD-とライトブルー(LB)の組み合わせにハマっています。 また、mini90から搭載されている機能として「二重露光」機能がありますが、ユニークなチェキプリントが撮影できるので、ぜひこちらも試していただきたいです。
兵藤さん:僕はフェーデッドグリーン(FG)とウォームトーン(WT)が好きですね。試作中に街中で見つけたものを撮影していたのですが、使える場面がたくさんあると思いました。 ほかにも、ライトリーク(LL)で空を撮ってみたり、ピンクの被写体をソフトマゼンダ(SM)で撮ってみたりと、撮影シーンに合わせてエフェクトを切り替えると楽しいと思います。
――mini 99はシャッターボタンがレンズ横と「濃淡調整」ダイヤル付近の2箇所についていたり、ショルダーストラップと三脚穴付きボトムグリップが付属されていたりと、屋外での撮影がよりスムーズになりそうですね。
神谷さん:ボトムグリップをつけておくと持ちやすくなりますし、セルフィーも撮影しやすいです。「バルブモード」を撮影するときは定点撮影をした方がきれいに撮影できるので、三脚に設置するのがおすすめですね。
――遊び心あふれる機能面だけでなく、ガジェットとしての使いやすさも細部にまでこだわりを感じます。では最後に、ユーザーに向けてメッセージをお願いします。
神谷さん:実際の光を照射して色表現を楽しめる、かつ1枚しか(チェキプリントが)出てこないという“アナログ感”を楽しんでいただきたいです。 INSTAXシリーズにはハイブリットカメラもラインアップしていますが、mini 99はとにかくアナログ感にこだわったので、「その一瞬を切り取れた感」が強い機種だと思います。 撮影する場所の光量や、背景色などによっても写り方が変わるので、1枚1枚ユニークなチェキプリントを創り出せるのが魅力です。 噛めば噛むほど味が出るようなカメラだと思うので、色々な楽しみ方を見つけてほしいです。
兵藤さん:多彩な機能を持ったカメラなので、不意な瞬間や思ってもみなかった瞬間を切り取れるのではと思います。そういう“偶発的なおもしろさ”を楽しんでいただきたいです。 実際に手に取って使っていただくと、“自分なりの表現”ができるようになっていくと思うので、ぜひじっくり楽しんでいただきたいです。
*1 INSTAX、チェキ、INSTAX mini 99、INSTAX mini 90およびINSTAX mini Evoは富士フイルム株式会社の登録商標または商標です。
photo by 高見 知香
text by 那須 凪瑳
“チェキ”
INSTAX MINI 99

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