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「“チェキ” instax mini 70」のデザイン誕生秘話を聞いてみた!

チェキの豊富なラインナップの中でもひと際スリムで洗練されたボディデザインと、美しくモダンなカラーリングで、昨年の発売以来人気を集めている「“チェキ” instax mini 70(以降、mini70)」。この新機種は今年6月に新色として「レッド」「ブラック」「ゴールド」の3色が追加され、ますますカラフルになった商品展開で活躍の舞台を広げています。そのプロダクトデザインを担当したのが、富士フイルムデザインセンターの池亀春香さん。入社後5年目まではメディカル製品を担当し、『Fazone CB(超音波診断装置)』や『FUJIFILM DR CALNEO C 1417 Wireless (デジタルX線画像診断装置)』、『AMULET Innovality(乳がん検査用デジタルX線撮影装置)』を手がけた池亀さんは、その後富士フイルムコンシューマー製品のデザインを担当。チェキでの初仕事となったmini70では、過去の経験を活かしながら、独創的かつ機能的な台形のシルエットを生み出しました。その制作秘話や、製品に込めた思いとは、一体?これを読めば、mini70を“もっと楽しめる”。そんな特別インタビューをお届けします。

Interview:池亀春香

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――池亀さんがプロダクトデザイナーを目指したきっかけを教えていただけますか?

プロダクトデザイナーという職業を知ったのは、中学生のころでした。高校の進路を考えるときに、「美大ってどんな場所だろう?」と多摩美術大学の卒業制作展示に行ってみたら、その展示がすごく楽しかったんです。自分自身も絵を描くよりモノづくりの方が好きだったし、プロダクトデザインは世の中の製品全部にかかわることなので、社会にも貢献できますよね。それで美大に入り、卒業後うちの会社のデザインセンターに入社しました。

――そのなかで「こういうものが作りたい」という理想の作品には出会いましたか。

具体的に「この方が好き」という方はいなかったのですが、モノとして手に収まる時計やカメラ、携帯電話などを見て、「精密で、個人所有できる製品をデザインしたい」と思っていましたね。思い返すと、父や祖父がカメラやメカニックなものが好きで、私も小さいころから、女の子向けのものよりロボットアニメが好きでした。小さいころサンタさんに腕時計をもらったときも、アクセサリーではなく「ちゃんと機能がある」ことに惹かれていたと思いますね。

――富士フイルムに入社してから5年目までは、メディカル系のプロダクトデザインを担当されました。これはどんな経験になりましたか?

医療器具は「病気を治せる」「ちゃんと検査ができる」など機能が優先されます。でも、やってみてわかったのですが、意外と見ためも大事なんですよ。患者さんの気が滅入っているときに触れるものなので、優しさが感じられるデザインが必要です。一方技師さんにとっては正確使える操作性が重要で、お医者さんにとっては高級感も大切です。「それぞれのユーザーの気持ちに訴えかけるのが大事なんだな」ということを実感しましたね。

――実際、池亀さんの医療系のデザインは、シンプル&スタイリッシュでありつつも、角が少し丸くまとめられていました。これは「患者さんに対する優しさ」が反映されたものですか。

そうですね。ただ、あまりファンシーだと医療器具の信頼感がなくなるので、バランスが大事でした。自分も現場に行って、その場で気づいたことを活かすのも大切です。シンプルさについては、みなさんに喜んでもらえるデザインを考えたときに、自然とそうなりました。でも同時に、長く愛着を持てる、愛嬌を入れたいなとも思っているんですよ。

――そして今回、mini 70をデザインされましたが、デザインの原案はどんな風に考えていったのでしょう?

チェキは大きさがユーザーさんにとってのハードルになっていたので、「ラインナップの中で一番小さいものを作る」ことは企画段階から考えました。つまり、薄く見えて「これならカバンに入りそう」と思えるものですね。正面がツートーンになっているのは、お化粧と同じ小顔効果をねらったものなんです。また、横から見ると斜めに傾斜がついていて、ここでも薄さを感じさせるようにしたんですよ。

――並んで自撮りをするときに、「後ろに下がると小顔に見える」のと同じトリックですね。

(笑)。人はパッと見た印象で判断するので、そういう効果を随所に用意しました。ちなみに、一番最初のモックアップがこの黄色のものなんです。この時点では別の案も3種類、スケッチ段階では約10種類ありました。

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また、当初からのもうひとつのテーマが「欧州/北米の方たち向けの商品を作る」ことだったんです。当時、「“チェキ” instax mini 8(以降、mini8)」も海外で売れ始めていましたが、欧米の方たちの中には「少しオモチャっぽい」「自分が持つにはかわいすぎる」という意見があったんです。国内でも、私もそうですが、「かわいいけれど、自分の持ち物とは少し違うかな」という声がありました。そこで、「チェキを楽しみたいけれど、大きさやテイストが好みとは違うかな」と思っていた人にも受け入れられるチェキを作ろうと考えたんです。その上でモックアップを4つ作って、企画担当者と一緒に欧州に調査をしにいきました。そうすると、一押しだった商品化されたデザインが好評だったんです。「スタイリッシュで洗練されている」「小さく見える」「きれいな写真が撮れそう」と言っていただきましたね。カメラなので、いい写真が撮れそうな雰囲気は重要です。そこで「高級感」というキーワードも出てきました。

――ある意味、医療系のデザインとも通じる部分があったのですね。

ただ、国によって色の好みが違ったのは面白かったです。パリでは黄色は評判があまり良くなく、「黒が最高だね」という話になったり、ロンドンでは黄色が人気だったりして。プロダクトは色もすごく重要で、好きな形でも自分の嫌いな色だと買いたくはならないですよね。mini8も7色展開していましたし、「カラーバリエーションは大切にしよう」と思いました。そこでコラボレーションを展開することも想定して、簡単にパネルを取り換えられるようにしたんです。そこに、往年のカメラにある軍艦部分のイメージも取り入れました。

――mini70は、先ほども少し話していただいた台形のシルエットが非常に特徴的です。

この形になったのには、小顔効果以外にも理由がありましたね。というのも、デザインをする際、アイコニックなシルエットにしたいと思っていたんです。カメラといえば四角、チェキといえば丸です。でも、丸や四角の中で工夫しても、全体のシルエットはそれほど変わらない。そこでいろいろ考えて、イスを参考にしてこの台形を思いついたんです。

――えっ、この特徴的なシルエットはイスだったんですか?!

そうなんです(笑)。インテリア雑誌を見て「ハッ!」としたんですよ。これだと形もきれいで、安定感もあります。チェキは倒れやすいとも言われていたので、カメラとして許せる範囲内で、少しぽてっとかわいい形にしました。それから、カメラにはフィルムを稼働させる内蔵物が必要ですが、それがここ(正面向かって左下)にいるんです。その部分もうまくカバーできるので、台形は意外と理にかなった形だったんですよ。

――そのシルエットもあってか、mini70にはインテリアにも自然に溶け込む雰囲気を感じます。ここには「日常の相棒になってほしい」という気持ちもあったのでしょうか?

そうですね。チェキは結婚式の二次会やパーティーなど「ハレの場」で使われることも多いですが、私はもう少し日常使いをしてもらえたらいいなと思っていました。mini8は可愛らしいデザインで、「“チェキ” instax mini 90」は本格的でレトロなカメラなので、mini70は等身大のスタンダードなものにしようと思ったんです。

――制作過程のなかで、特に印象に残っている作業を教えてください。

実現するために泥臭く努力したという意味では、やはり「小さく見せる」ことですね。デジカメはセンサーや電池や液晶が進化すると商品も小さくなりますが、チェキはずっと変わらないアナログのカメラです。そのため、この人(チェキ)の場合は内蔵物には小さくできる要素がないんですよ。それでも小さくスタイリッシュに見せるにはどうすればいいかを考えましたね。これは制作過程で、3Dプリンタを使って出した試作品なのですが……。

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▲左:完成品/中央:モックアップ/右:3Dプリンタで作った試作品

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――あっ、持ってみるととても軽いですね。

石膏でできているんです。サイズ感やデザインのバランスを見るために、こういうものを作ってはチマチマと調整しました。チェキだからこそ、細部を詰めることが大切だったんです。

――さまざまな工夫がなされて、ひとつのカメラが出来上がったのですね。池亀さんにとって、mini 70やカメラの魅力とは、どんなものだと感じていますか?

ただの道具ではなくて、もう少し身近なものだということですね。

――やはり、カメラは人の感情にまつわるものを記録していく製品でもありますしね。

おっしゃる通りです。特にチェキは、その距離がより近い製品だという気がしているんです。今回はライフスタイルに取り入れやすく作ったつもりですし、カラーバリエーションも豊富なので、そこを楽しんでもらえると嬉しいですね。それから、mini70は「男性向け」とも言われますが、自分自身はあまり意識していないんです。いろんな方に選んでいただいて、「俺のチェキ」「私のチェキ」になってもらえたら、一番嬉しいですね。

――ちなみに、池亀さんは全6色の中でどの色がお気に入りですか?

初志貫徹ということで、黄色にしておきます(笑)。実はデザイン画も、最初は黄色から書き始めたものだったんですよ。

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text&interview by Jin Sugiyama
photo by Mayuko Yamaguchi

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