シネマトグラファー・上原晴也が切り取る「ストリート」と「光」/ “チェキ” instax mini Evo インタビュー
独自の感性とクリエイションで人々の心を揺さぶる表現者の“視線”に迫る連載企画「見せてよ、きみが見てる世界。」がスタート。12月に登場したチェキシリーズの新モデル「“チェキ” instax mini Evo(以降、Evo)」を使ってゲスト自身が撮り下ろしたチェキプリントと共に、感情をアウトプットする方法や、表現に対するこだわりを伺います。
いよいよ最終回となる第九弾に登場するのはシネマトグラファーの上原晴也さん。アーティストのポートレートやMV制作などに携わり、写真と映像、両方の分野で高い評価を集める上原さん。カメラとの関わりや撮影の際に意識していること、Evoで写真を撮るコツなど、幅広く話してもらいました。
「ストリートで学んだ」。上原さんの鮮烈な世界観が生まれるまで
人気アーティストのポートレートやMV、ブランドのプロモーション動画などを幅広く手がける上原さん。その鮮烈な色彩感覚と独特な質感は、見慣れた街や人物ですら全く違った印象に見せてしまうほど。唯一無二の世界観を育んだ背景は、やはり一味違うものでした。
「親の方針で、学生時代をホームスクール(通学せず自宅で学習をする教育方法)で過ごしたんです。年間の教育課程から逆算して『今日は何個漢字を覚えよう』と親に相談しながら勉強するような生活でした。自分のペースで進められる分、好きなことにも時間を割きやすいので、ギターやピアノ、ビートメイキングなど、いろいろなことに挑戦できて。写真もそんな中で興味を持ったものの一つ。ファインダーを覗くという行為そのものが楽しかったんです」
「週末はよく地元の横須賀から始発で東京の街に行って、終電で帰宅していました。当時、廃墟や高層ビルを探検する『アーバン・エクスプロレーション』がSNSで流行っていて。その影響もあって、街中の写真を撮るのにハマっていたんです。カメラの技術はそんな生活の中で自然と身についていきました。だから僕の作風に最も影響を与えたものはストリートだと思いますね」
カメラや音楽など、好きだと思ったものをひたむきに突き詰める。そんなライフスタイルの中で培われていったのは、プロも唸る高い技術と同世代の人脈でした。
「高校時代からミュージシャンの友人にライブの撮影を依頼されるようになって。その頃から『アー写(宣材写真)を撮ってよ』とか、仕事の依頼をもらえるようになりましたね。映像の仕事をはじめたのは19歳の時。同い年の映像監督のSpikey John(スパイキー・ジョン)と出会ってからですね。お互いにヒップホップが好きだし、何より“バイブス”が合うから意気投合して。彼のPV撮影に同行するうちに、映像の知識を教わりながらカメラマンもやらせてもらうようになりました」
映像の専門知識も独自のやり方で身につけ、現在では「仕事内容を比率で表すと映像が8割」と話すまでになった上原さん。世界的なストリートブランドの宣伝動画も手がけるなど、活動の幅はより一層広がっていきます。
「例えば、CMはどれだけクオリティが高くても、大抵は1ヶ月あれば忘れてしまいますよね。でも、いい映画や写真って何十年経っても残り続ける。そんなふうに見た人の心に残るような、もっと言えば人生を変えるような作品を、いつか撮ってみたいですね」
世界を拡張する。上原さん流・エフェクトの活用方法
「チェキの魅力は“気兼ねなさ”。一眼レフよりも親しみやすい見た目だし、多くの人が撮られ慣れているので、被写体に緊張感を与えにくいんです。撮ったその場でチェキプリントにできるので、プレゼントにもぴったりですよね。家族や友達にチェキカメラとチェキフィルムを贈ったこともありますよ」
チェキについてそう語る上原さん。最新モデルのEvoでは夜のビル街や道路を撮影したくなったといいます。
「正直、夜の撮影は難しいかなと思っていたんです。でも、試してみるとすごく綺麗に写るので、これなら僕好みの写真表現ができそうだなと。レンズエフェクトとフィルムエフェクトをかけ合わせれば100種類の表現ができるのも面白いですね。特にフィルムエフェクトは僕が大切にしている『光』を強調するのに便利で。オレンジや赤などの暖かみがある光は『イエロー』、青みがかった冷たい印象の光には『ブルー』を使いました。抽象的な写真が撮れる『ミラー』のレンズエフェクトもお気に入りです」
あえてブレを発生させることで光の筋を作ったり、逆光を利用して陰影を際立たせたり。上原さんが手がけたのは、Evoの性能をフル活用したドラマチックな写真。その撮影方法を伺いました。
「暗闇に光が浮き上がっているような写真は露出を意図的に変えています。暗い場所にレンズを向けてシャッターボタンを半押しした後に、外灯や車のテールランプなどを撮るイメージ。これはピントを合わせた場所の光量を認識して、自動調整するEvoの機能を利用しています。また、シャッターを切る瞬間に少し手を動かすと光の筋を作ることもできます。見慣れた景色でも、エフェクトや撮り方を工夫することで新しい視点を発見できるのがEvoの魅力だと思いますね」
「学生時代、香港にある高層ビルの70階で、屋外に出て写真を撮ったことがあったんです。でも僕、本当は高所恐怖症だし、幼い頃はブランコも乗れなかったくらい“ビビリ”で(笑)。それなのに、カメラを持つと恐怖がなくなるし、撮りたいもののためだったら普段行かない場所にも行けます。それに、写真は言葉が通じない人にも伝わるし、そこから広がった人脈もある。そういう意味で、僕にとってカメラは自分の世界を広げてくれる存在なんです」
text by 山梨 幸輝
photo by 中村 寛史
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